2023.10.05
在宅医療栄養療法

副腎疲労症候群

 市立輪島病院に奉職していた約20年前。「あそこのクリニックの先生は風邪を治すのが上手だ」「どうやらステロイド剤を処方しているらしい」という噂を耳にした。ステロイド剤は免疫を抑制するのにけしからん! というのは凡人の発想。その先生は先見の明のある方だったんだと思う。

 副腎皮質ホルモンであるコルチゾール(以後F)は生存に不可欠なホルモン。

 不可欠でありながらしかし、足りなくなっている人は多い。若い人でも学校や職場に行けなくなるほどにぐったりしている人、加齢とともに食べる量が減ってきているという人、担癌による消耗状態の人。

 Fを人工的に合成した薬をコートリル錠®という。これを処方して補うだけで劇的に元気や食欲を取り戻すということは、Fの不足が本質的な問題だったということ。足りないものを補った時の改善は、目を見張るほどである。

 元気いっぱいの人のFの量を100%、Addison病として知られている絶対的なFの欠乏症の人の量を0%とするならば、その0と100との間にはグラデーションがある。60や80でも“普通に”社会生活をしている人は多いだろう。しかし基礎的に60%しか分泌されていないとすると、強いストレスがかかる、また多くはその状況が続くことにより、Fは日常生活を維持できないほどに足りなくなってしまい、動けなくなってしまう。これを副腎疲労症候群と呼んでいるが、言わば続発的な副腎皮質機能低下症である。

 老衰と十把一絡げにされているうちの、少なくとも一部はこの副腎疲労症候群である。コートリルで元気さや食欲を回復される方は多い。一旦食欲が回復してしまえば、体内でFを生合成するに足る脂質(特にコレステロール)やビタミンB群、ビタミンC、鉄・マグネシウム・亜鉛などのミネラル、が摂取できるようになるため、いずれコートリルを減量したり中止したりできることも多い。つまり、コートリルが最初のエンジンをかけるような役割を果たす。

 最初のエンジンがセルトラリンなどの抗うつ剤であることもしばしば経験される。その人にとってはノルアドレナリンやセロトニンといった神経伝達物質の不足が、より強く生活の質に影響していたということになる。

 しかし問題の根幹はFの場合と同様、どうして体内での生合成が低下するに至っていたのか? ということである。
 加齢とともに生理的にこれらの合成能が低下するのは致し方ない。問題は多くの方で、加えて栄養摂取の偏りがあること。すなわち、糖質ばかりを摂って、肝心のタンパク質や脂質、ビタミン、ミネラルの摂取が足りていない、ことである。

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