2020.11.27
在宅医療

いけてた頃の

在宅医療の仕事をしていると、関わることになる方々は人生の終末段階、あるいはそれにさしかかりつつある方ばかり。

外来診療や入院診療と大きく異なる在宅医療の利点は、ご自宅を訪問して行う医療であること。部屋に一歩足を踏み入れれば、その方が人生で得てきたもの、こだわってきたこと、が一目瞭然のことが多い。

最も長い時間を過ごすリビングに飾ってある賞状や記念品、子供やお孫さんの作品、等々。

それらは、その方の歩んできた道、人生そのものである。

我々医療従事者は、プロブレムリストと称して、その方の”悪い点リスト(悪い順)”をまず作る。

つまり最初から、その方のどこが悪いのか?というフィルターでその方を診る習慣がついてしまっている。

解決すべき問題点の洗い出しと整理という意味で医学的にそうするわけであるが、医療を医学+人生を支えるためのアート、と捉えるならば、アートの部分はこうして生活を直視しない限り、すっぽりと抜け落ちてしまうことが多い。

育ててくれた親や友人、恩師がいて、社会で仕事をして、家族を持ち養って、好きだったことやこだわりがあって、こうしたことはめっぽう得意だがこうした弱さもあって。

しっかりと社会の一員であった「いけてた頃の」その方に、会ってみたかったなといつも思う。

せめて、その「いけてた頃」を想像してその方に接するような敬虔な気持ちで、診療にあたりたいものだと思う。

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